YouTube チャンネルのネットワーク化で創る 新しいエンタテインメントの形

吉本興業チャンネルは、2007 年 7 月に吉本興業が開設した公式チャンネルで、これまで累計 3 億 1,500 万回以上の再生回数を誇っています。吉本興業カンパニーの中で、YouTube チャンネルを含めたデジタル関連事業を管轄している株式会社よしもとクリエイティブ・エージェンシーのデジタル担当執行役員の山地様にお話をうかがいました。

YouTube における現在の取り組みを教えてください

山地氏:吉本興業の公式チャンネルの展開に加え、『OmO (オモ) 』というブランドでお笑い・ファッション・音楽・グルメなど、さまざまなコンテンツごとに YouTube チャンネルをまとめたMCN(Multi Channel Network / マルチ・チャンネル・ネットワーク)を展開しています。現在約 50 のチャンネルをネットワーク化しています。

YouTube に取り組もうと思ったきっかけはなんですか

我々は、YouTube がGoogle 傘下になった直後の 2007 年から吉本興業公式チャンネルを立ち上げて取り組んでいます。当時は、動画を使ったビジネスというよりは、プロモーションの出口の1つとして動画の可能性を感じていました。携帯キャリアにコンテンツを提供して課金していたので、その内容と重複しないコンテンツを無料で提供することで、何らかの告知になればと思っていました。

その後、動画広告が始まり、チャンネル保有者として「広告収入を得られるプラットフォーム」となりました。動画視聴による課金モデルではなく、広告収入モデルでのマネタイズの可能性を探れる状態になったので、「無料告知の場の1つ」という認識を変えて、「売れているコンテンツ」を YouTube でも展開しはじめました。若手のウケているネタを展開することで、彼らのプロモーション機会を増やすことも期待していました。

『OmO (オモ) 』 (MCN) 展開のきっかけを教えてください

YouTube の存在感が高まってきた中で、外で「売れているコンテンツ」を提供するだけでなく、「YouTube ならではのオリジナルコンテンツ」を作ったら面白いのではないかという話になりました。

吉本興業の歴史は、劇場から始まり、番組、イベント、映画、そしてデジタルと「場」を作り、提供してきた歴史ともいえます。YouTube で自ら制作した動画を共有できる「場」が日常になるのであれば、公式チャンネルを展開するだけでなく、お笑い・ファッション・音楽・グルメなどさまざまな YouTube チャンネルをまとめたネットワークを作り、そこから新しいエンタテインメントを誕生させるような動きを作っていきたいと考えました。また、このように個々人のチャンネルを集約して展開することで、当社のエージェンシーとしての力も発揮できると考えました。

MCN 企画を構想した当初は、YouTube で既に活躍しているクリエイターとの協業も視野に入れていましたが、これはなかなか前に進みませんでした。改めて社内を見返してみたら、芸人養成学校の NSC (ニュー・スター・クリエイション) にポテンシャルのある人がたくさんいることに気づきました。

この中に動画撮影や編集などが好きな人もいるのではないかと、Google と共催で動画コンテンツの説明会と面接を実施し、400 名ほどの参加者からポテンシャルの高そうな人を選抜しました。スタート時は 50 チャンネルで開始し、現在は『OmO』全体で約 500 チャンネルを展開していますが、各クリエイターに担当がついて再生回数のアップに繋がるコンテンツの作り方や、配信頻度、視聴者とのエンゲージメントについて伝えながら、一緒に動画コンテンツ制作へのチャレンジを進めています。

YouTubeでの反響に手応えを感じたのは、どの時期でしたか

『OmO』を開始したのとほぼ同時期に、COWCOW のあたりまえ体操の動画を配信しました。その動画が、日本の視聴者だけでなく、インドネシアでも流行したことがわかり、衝撃を受けました。YouTube のグローバルプラットフォームとしての価値を実感できた一瞬です。

また、テレビの収録時やよしもと劇場でのネタを、YouTube 向けに撮影し、公式チャンネルで配信しました。一定数の動画を配信してデータを検証した結果、テレビの放映前にお笑いのネタを YouTube の公式チャンネルでアップしておくと、テレビの放送後に動画の再生回数が伸びるという傾向が見えてきました。もともとテレビから人気を得たオリエンタルラジオや鉄拳などは、YouTubeで視聴回数が伸び、その後動画関連のネタが改めてテレビでも売れていくというパターンができつつある状態です。

さらに『OmO』 からは、YouTube を中心に人気を獲得するクリエイターも出てきました。その際、エグスプロージョンのように継続的に取り組んでいるクリエイターは、一度人気が出た際に、過去にも遡って動画が蓄積されているため、人気の継続力が高いと感じています。

YouTube に適したコンテンツをどのように感じていますか

当社は、今までテレビを中心にコンテンツの企画・制作を実施してきました。その経験と照らし合わせると、テレビらしいコンテンツと YouTube らしいコンテンツの作り方がとても違うと感じています。YouTube では「共有したい」、「真似したい」、「伝えたい」と思ってもらえる動画の視聴回数が伸びる傾向にあります。既存メディアのように完成度を高めた自己完結型のコンテンツよりも、気軽に「これ見た?」と友達に言えるようなコンテンツが向いているという見立てです。視聴者の方が近い距離感で動画を楽しんでいるので、動画に出ている芸人やクリエイターの態度やモチベーションが伝わりやすく、視聴者の共感を引き出す上で非常に重要なファクターとなっています。

YouTube で人気のクリエイターは、楽しんでやっていることが伝わってきますよね。宣伝としてやっているものと、やりたくてやっているものの違いが視聴者にダイレクトに伝わります。「やりたくてやっている楽しさ」が伝わることで、「コメントしたい」、「共有したい」という想いを引き出すのではないでしょうか。

テレビと YouTube 双方の特性を活かしながら、それぞれに適した動画コンテンツを制作し、さらに相乗効果を狙うという意味では、まだ知見を積む必要性があると感じています。

動画のプラットフォームもさまざまですが、位置づけの違いをどのように認識されていますか

Amazon、Netflix などの Subscription Video on Demand(SVOD、定額動画配信) のプラットフォームは、制作費をかけて配信権でマネタイズするスキームになります。有料でコンテンツを視聴する方に、購入いただいて満足いただけるレベルを担保することが前提になりますので、完成度や作品性の高いコンテンツを提供する流れになっています。

一方で YouTube のような広告モデルの場合は、有料視聴のコンテンツに比べると、動画を配信した後の影響力を想定以上に伸ばすチャンスがあると考えています。中でも、YouTube のユーザー規模、視聴時間、再生回数、それに視聴者とのエンゲージメントの強さは群を抜いています。YouTube でチャレンジしながら企画の芽を作っていくことで、今、何が求められているのか、受けるのかを検証することができるのが魅力です。

今後の展開について教えてください

芸人もクリエイターも、面白いと思っていることを表現して、お客様から対価をいただくのが基本です。それを動画で出すのか、ライブやイベントで見せるのかというところが違いでしょうか。ライブやイベントという形態はなくならないと思いますが、以前のようにライブの内容を DVD 化するだけで終わりという流れは時代に沿わなくなってきていると感じています。イベントやライブと並行して、コンテンツを YouTube で展開し、じわじわと支持をいただいたものを公式化・定期配信化していく流れをきちんと回していくことが重要になってきていると感じています。

当社の精神は、当たるか当たらないかは別にして、「面白いと思うのは、とりあえずやってみよう」というものです。個人でも動画を撮影、制作して配信できる時代ではありますが、当社としては、個人が制作しているコンテンツ以上のエンタテインメント性を担保しながら、きちんと視聴者をエンゲージメントできるものを配信していきたいと考えています。さまざまな取り組みを試しながらも、信頼できる質の高いコンテンツを提供できる会社として、YouTube を通じた 新しいエンタテインメント作りに挑戦していきたいと考えています。

■チャンネル(人気の動画Top3)

エグスプロージョン チャンネル

(参考)

鈴川絢子

Think with Google 日本 ニュースレター

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