デジタルマーケティングを組織に行き渡らせるために

スマートフォンの普及率は全国平均で 70% に届こうとしている中、地方店舗の販促においても効果的にデジタルを活用することが求められます。西武・そごうでは、各店舗担当者の意識変革を促しつつ、徐々に店舗販促にもデジタルを活用することを推進。その取組から、個別店舗販促のデジタル化に必要な視点・アクションを探ります。

インターネット広告費が 1 兆円を超え広告費全体の 2 割弱(1) を占める時代になる中で、実店舗をもつ小売店でも本部主導のデジタルマーケティングの活用は浸透してきました。しかし、全国各店舗の広告販促活動のデジタル化には及ばず、そのギャップが課題となっています。グループ全体にデジタルマーケティングを浸透させるために、本部はどのようなアクションをとることができるのでしょうか?

全国に約 20 店舗の百貨店を持つ西武・そごうにおける店舗起点のウェブマーケティング改革プロジェクトを通じて、この課題に必要な仕組みと成功の秘訣を考えてみました。

業界全体が厳しい市場環境に置かれている中、西武・そごうは伝統的なチラシを主体とした販促手法からの脱却を模索していました。まず、本部主導で実施している夏のセールなどの大型キャンペーンで、ネット広告の利用を推進。本部内で知見を蓄積してきました。そして、第 2 ステップとして、店舗販促のネット広告利用拡大を目指しました。

- 本部が各店舗のデジタル化を推進するために意識したポイント -

  • 今までの販促手法から脱却し、新しい考え方・手法を積極的に取り入れるマインドセットをどう醸成していけるか
  • ネット広告に対する知識・経験不足をどうサポートし、スキルを育成していけるか
  • 店舗の主体性をどう担保し、「自分ごと」として意識をもってもらえるか

プロジェクトは昨年末から開始し、パイロットを 2 月に実施しました。昨年から今年前半にかけて実施した5つの施策 (図1) を紹介しながら、どのようにして店舗起点でデジタルマーケティングを推進する土台を作り、上述の課題を解決していったのか見ていきたいと思います。

西武・そごうが実施した 5 つの施策

1. わかりやすく一貫した社内コミュニケーションを本部が全方位で展開

これまで本部・各店舗共に、宣伝広告・販促に携わるスタッフは広告枠を押さえることを仕事として捉えていました。そこで、本取組を推進した本部では「枠から人へ」というキャッチコピーをつけて取組みを推進してきました。同時に、ネット広告が持つ媒体としての潜在価値 ( ポテンシャル ) を、リーチ想定人数を具体的に提示したり、「 折り込みの xx 万部がネットの xx に相当する 」 というような、今まで自分たちが使ってきたメディアと同じ土俵で比較したわかりやすい訴求を行いました。そして、誰でも上司が理解していないことを実施することは難しいため、各店舗のスタッフだけでなく、同時に経営層へのコミュニケーションなど、社内の上・横の会話を徹底して実施しました。

「直接話したことがない人が、我々が使ってきたキーワードやフレーズを使うのを聞いたり、上司、ひいては経営層からコメントを頂いたり、全く違う部署のメンバーからもそういった言葉が出てくるのを聞いた時に、我々の考え方が全社に広まっているんだなということを実感しました」 ( 株式会社そごう・西武の営業企画室 販売促進部の関口氏 )

 

2. 本部・店舗間の予算配分を工夫し、トライしてみようと気軽に思える仕組みを整備

デジタルマーケティングを推進していくということを打ち出した後、ウェブ広告の利用を推進するという目的で各店舗から毎月一定額を本部にて蓄積。実際に実施したいと挙手した店舗は、その予算内から広告を配信するという仕組を構築しました。新しいことに取り組まなければならないという意識は形成されていたところで、このような予算配分に切替えることにより、店舗にとっては、通常の販促にプラスしてウェブ広告を実施できるので、挙手するインセンティブが高まりました。また、パイロットを実施した時期が 2 月、ちょうどバレンタインという大きなイベントとも重なり、明らかな効果を見ることが出来、最初の機運をその後につなげることに成功しました。

3. 店舗の工数を最小限に抑えると同時にスキル不足をサポートする体制を構築

ウェブ広告に不慣れな担当者でも簡単に申請できる仕組みを Google フォーム ( 『 ネット販促依頼フォーム 』 ) を使って整備しました。販促依頼フォームは、本部とデジタル広告運用会社に同時に送信され、受け取った広告会社の担当者が AdWords キャンペーンを設定しました。広告運用会社とのオペレーションやコミュニケーションは本部に集約し、各店にかかる必要工数を最小限まで削減しました。

販促依頼フォームには、店舗名や販促対象となるイベント・催事名、ウェブサイトの URL 、実施したいデジタル広告、開始日・終了日などの基本情報とともに、 「 誰に 」 「 何を 」 訴求したいですか、という、ともすると通常の販促で忘れられがちなコミュニケーションの基本要素を折り込み、改めてターゲット層が誰なのか、どのようなメッセージを伝えたいのかという事を考えてもらう機会をつくりました。同時に、最新のネット広告事情や AdWords 運用方法について解説したわかりやすい動画を掲載することで、自己学習を促せる工夫も施しました。

「 エクセルでフォームを作り添付ファイルで送る形でもできたかもしれないが、新しいツールを活用した仕組みを作ることで、『 新しいことが始まった 』 感を作り出すことも出来た 」 と、単に工数削減の効果だけでなく、モメンタムを作りモチベーションを高める効果にもつながりました。

4. 結果のフィードバック及び研修を通じたスキル育成

広告配信後に、本部は各店舗にその結果をレポートしました。数字を見ることで店舗の販促担当者から「クリック単価を下げるにはどうしたらいいのか?」「いつもよりインプレッションが増えているのはなぜ?」などの質問が出てくるようになり、対話の中でウェブ広告に対する理解を促進しました。

2 月にパイロットを実施したすぐ 1 ヶ月後の 3 月には、研修も実施。企画書もキャッチコピーも決まっている商品を事例に、その販促を考えてもらう、という演習を通じてターゲティングなど業務に直結するスキル育成を試みました。また、成功した店舗のマネジメントに話をしてもらい、「 自分ごと 」 として捉えてもらうよう工夫しました。

また、月に 1 回行われる販促マネジメント会議で、成功事例と失敗事例を提示。失敗事例については改善できたポイントを説明する中でネット広告のプロダクトについて説明し、既存のマーケティングの考え方を刷新することに努めました。例えば、ある店舗では、今までのマーケティングの考え方に基づき、デモグラフィックベースのセグメントに基づき、男性にはラーメン、女性にはスイーツの広告を訴求していました。しかし、web 広告では人々の 「 興味・関心 」 で配信できることを説明し、ターゲティングの考え方について認識を改める形で広告プランを立てました。

5. 店舗横並びで結果を 「 見える化 」 したダッシュボードと店舗間対話の促進

ウェブ広告、SNS など、メディア毎に分断していた情報を網羅し、全店舗横並びに表示することで、自店舗の立ち位置がわかるようなダッシュボードを作成しました。そして、地域別に店舗の担当者を集めて対話する機会を設けることで、今まで以上に店舗間での横のコミュニケーションを増やすことに尽力しました。店舗が主体的に取り組み、自分たちにノウハウを蓄積していくことで、継続して取組を実施していける形を作りました。

これらの施策の結果、今では店舗の販促において積極的にデジタルが活用されるようになりました。そして、例えば、秋田店では、グーグルとの共同調査の結果、秋田県内においてバナーが表示されたユーザーの 20% 以上が実際に来店していたというような調査結果も出ており、来店人数や売上への効果も見え始めています。

店舗で実施したバナーのクリエイティブ

1 - 5 の施策を通じて見えてきた小売店舗における本部と各店舗のデジタル化推進のための秘訣のまとめ

  • わかりやすい言葉で社内の共通言語化・スローガン化することで理解を促進し、目指すべき方向性への意識を統一する
  • 現場の物理的・心理的な壁を取り除くための仕組み・コミュニケーションを徹底し、楽しみながら取組んでもらえるよう工夫をする
  • 結果の見える化と店舗間の対話を促進することによりいい意味での競争意識とお互いに学び合う姿勢をもたせ、店舗主体の取組として根付かせていく

出典

  1. 「2015年日本の広告費」電通
久米 雅人

広告営業本部 小売業界担当 シニアアカウントマネージャー

早乙女 太郎

戦略企画・営業開発本部 ストラテジスト

Think with Google 日本 ニュースレター

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